2014年5月5日月曜日

能楽セラピー

去年の今頃は職業病に悩まされながら仕事に明け暮れて、心身ともに弱り果てていた。

でも、半年前から定期的に能楽堂に通うようになって心と体の状態が驚くほど改善した。

日本文化全般にいえることだけれど、特に能楽では陰陽五行の思想が至るところ(揚幕の五色や大小鼓など)にちりばめられ、良い「気」を巡らすための完璧なシステムが構築されている。

囃子方が「気」を打ち込み、舞台上に「気」を吹き込んでいく。

地謡が強力な「気」をたっぷり含んだ謡にのせて、プラスの言霊を舞台に送り込む。

シテ方が舞台にみなぎる「気」を美しく流れるように巡らせ、ワキ方がそれをサポートする。

三間四方の二辺を囲む見所が能楽堂に満ちた「気」を感受し、感動の「気」を舞台上に反射していく。

かくして再び「気」が舞台上に集まり、シテ方が精妙な舞を舞いながらその「気」をさらに巡らせ、舞台と見所の相互作用によって唯一無二の、一期一会の舞台が完成されていく。

凄い舞台を見て心が揺さぶられると、陰と陽の「気」が調和して、心身のバランスが整えられるような気がする。

たとえば、負の感情にとらわれた時は大皮が(私には)良いようだ。
特に亀井広忠さんの気迫のこもった演奏には、たちの悪い邪気を吹き飛ばすお祓いのような効果がある。
また、一噌仙幸先生のクリスタルな笛にはその音色と同様、水晶のような浄化作用がある。

日本語が分からない外国の人が能を見て感動するのも、そこに流れるパワフルで清浄な「気」を感じとるからだろう。

だからシテ方の名手は「気」を巡らせる名人でもある。
能楽堂に充満した「気」を巧みに操り、時に激しく、時に静謐な気の流れを刻々と創り上げていく。
私がいちばん好きなのは、舞台上で自らも美しい「気」を放つ能楽師かもしれない。

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