2014年8月26日火曜日

第45回東西合同研究発表会:国立能楽堂


舞囃子
 宝生流《龍田》 髙橋 憲正
    笛成田寛人 小鼓岡本はる奈 大鼓亀井洋佑 太鼓前川光範

 観世流 《松虫》 河村 浩太郎(京都)
   笛杉信太朗 小鼓清水和音 大鼓河村裕一郎
   地頭 片山九郎右衛門


能 
 観世流 《箙》
 山田 薫(大阪)
   ワキ野口琢弘 殿田達也 アイ泉愼也
   笛赤井要佑(大阪) 小鼓林大輝(京都) 大鼓山本寿弥


狂言 
 大蔵流《呼声》
 岡村宏懇(京都)山本善之(京都)新島健人(京都) 


舞囃子
 金剛流 《唐船》
宇髙徳成
    笛山村友子 小鼓飯冨孔明 大鼓渡部諭 太鼓林雄一郎
 金春流 《忠度》カケリ入リ  村岡 聖美
    笛 熊本俊太郎 小鼓 田邊恭資 大鼓 森山 泰幸(大阪)


独吟
 観世流 《竹生島》
 西野 翠舟
 福王流 《鵜之段》 矢野 昌平


舞囃子
 観世流 《葛城
 樹下千慧(京都)
    笛小野寺竜一 小鼓曽和伊喜夫 大鼓柿原孝則 太鼓中田一葉(大阪)
 観世流 《海士》 上野 朝彦(大阪)
    笛貞元智宣 小鼓幸泰平 大鼓大倉慶乃助 太鼓澤田晃良(東京)

 
 喜多流 《小鍛冶》
 塩津圭介
   ワキ岡充(京都)有松遼一(京都) アイ山下守之(京都)
   笛森田秀平(京都) 小鼓船戸昭弘(名古屋) 
   大鼓 河村凜太郎(京都) 太鼓 大川典良




初めてうかがった東西合同研究発表会。今年で45回目なのですね。
5流派だけでなく、普段あまり拝見できない京都・大阪の若手能楽師の方々の演能を鑑賞できる貴重な機会。
みなさん、レベルが非常に高くて、見応えがありました。
あまりにも大勢いらっしゃるので、細かく感想を書けないけれど、
初めて拝見した方々の中で特に印象に残ったのが、

京観世の河村浩太郎さんと樹下千慧さん。
特に樹下千慧さんの《葛城》はうっとり。夢見心地の気分になります。

大阪(大槻系)の山田薫さんはとても美声で聞き惚れました。
金剛流の宇髙徳成さんは端正で、きっちりした型。
もちろん、東京でお馴染みの高橋憲正さんと塩津圭介さんも素敵でした。
特に、塩津さんの《小鍛冶》前シテの童子がとても美しくて印象的。
この方、足のハコビと「せぬひま」の佇まいが本当にきれいですね。


囃子方では、東京でもお馴染みの前川光範さん、杉信太朗さん、林雄一郎さん、
小野寺さん、田邊さん、大川さんもいつものごとく気迫のこもった演奏だったけれど、
初めて拝聴した林大輝(小鼓)、赤井要佑さん(笛)、森山泰幸さん(大鼓)、
中田一葉さん(太鼓)、澤田晃良さん(この方が東京だけれど、初めてかも?)
がとても良かったです。

特に、森山泰幸さんと田邊恭資さんの大小鼓の掛け合いは絶妙。
この日の番組の中でいちばん息が合っていて、カッコよかった!
いつまでも聞いていたいくらい。

森山さんは掛け声も素晴らしくて、もっと東京のお舞台に御出演されるといいのに。


それから、矢野昌平さんの独吟《鵜之段》は絶品でした。
ワキ方の独吟を拝聴するのは初めてだったけれど、篝火の中で船を浮かべてうを放つ、
あの名場面とその時の高揚感、殺生をする時の陶酔感のようなものが
ありありと伝わってきて、独吟の醍醐味を堪能できた気がします。

5時間にわたる長丁場だったけれど、すっごく充実した公演でした!



2014年8月15日金曜日

第27回 相模原薪能

解説 金子直樹

火入れ式

狂言 《福の神》 福の神 三宅右近
          参詣人 三宅右矩  三宅近成
          後見  金田弘明

仕舞  《笹之段》  梅若玄祥
             
能  《橋弁慶》 弁慶 松山隆雄  牛若丸 松山絢美  従者 松山隆之
          アイ 高澤祐介

           囃子  栗林祐輔  田邊恭資  佃良太郎
          後見 小田切康陽 山中迓晶 小田切亮麿

          地謡 梅若玄祥 梅若紀彰 角当行雄
              土田英貴 川口晃平 角当直隆  


楽しみにしていた薪能。
今回は、前から3列目の指定席のチケットを購入できたので、見えやすいだろうと期待してたのですが、
あいにくの雨で、薪能じゃなく、ホール能に振り換え。
その結果、前から6列目の一番端っこ。見えづらい席になってしまいました (T_T) 。

日頃の行いかな……。
雨だから浴衣じゃなく洋服だし、苦手なホール能だから、テンションは低め。
お天気ばかりは、仕方ないですね。


主催者のあいさつの後、お能を初めて見る人のための初歩的な解説。
何事もそうだけれど、まったく知らない人に分かりやすく説明するのって、かなり難しいと思う。
金子先生はレディー・ガガまで引き合いに出していらっしゃって、
お能に親しんでもらおうという意欲と努力との跡がうかがわれる解説でした。


三宅ファミリーの狂言は面白かった。
オペラグラス――薪能・ホール能鑑賞のための秘密兵器――を持参したので、
演者の表情や装束の文様、手の細かい動きまでも鑑賞できて、けっこう楽しめました。


次は、お待ちかねの玄祥先生の仕舞。
来月の国立能楽堂の《百万》は、チケット争奪戦に破れて席が取れなかったので、
せめてもの玄祥先生鑑賞です。
やはりよかった~!
舞もいつもにも増して華やかで端正で、そして何より謡がとびきり素敵でした。
土田英貴さん、川口晃平さん、角当直隆さんの地謡もよかったし。
これを拝見しただけでも、はるばる相模原まで来た甲斐があったというもの。
仕舞だから、あっという間に終わっちゃったけれど、ずっと何度もループして
繰り返し見ていたかった。


そしてお能の《橋弁慶》。
お囃子は若手の方々だけれど、気合いが入っていて、聴きごたえがありました。
地謡も盤石な印象。

子方さんは6歳でとても可愛らしくて、年齢の割にはとってもお上手で、
大役をしっかりこなしていらしたのだけれど、
この曲は6歳ではまだ少し早かったんじゃないかな。
《橋弁慶》は、子方が準シテのような存在だから、
舞も謡も立ち会いも多くて、子方にとってはかなり難易度の高い曲だと思う。
詞章にあるように12,3歳か、せめて8~10歳以上になってからのほうが、
よかったのでは……。


地謡と囃子はとても引き締まっていたので、ホール能としては楽しめました。

帰り道や電車の中で、今日のお能の観客らしき人々が
「あのお子さんは女の子に見えたけれど、男の子?
女の子じゃないよね?歌舞伎、じゃなかった、能って男だけでやるものでしょ?」
というような話をしているのがあちこちで聞こえてきて、
世間ではまだまだ歌舞伎と能が混同されているのと、
歌舞伎だけではなく、お能も男だけがやるものという社会通念があるのですね。
(たしかに、女流能楽師の方々はテレビにはあまりご出演されないから、
世間的な認知度は依然として低いのかもしれません。
NHKで鵜澤久さんのおシテの《野宮》などを放送すると、世間の見方も変わるのでは。)

2014年8月14日木曜日

能と邦楽のススメ 宝生能楽堂


案内と解説

尺八
箏曲
長唄

一調 「野守」 関根知孝    観世元伯

仕舞 「玉之段」 武田孝史
  地謡 辰巳満次郎 野月聡 大友順 水上優 

舞囃子 「羽衣 和合之舞」 観世清河寿
  囃子 藤田次郎 曽和正博 佃良勝 観世元伯
  地謡 関根知孝 浅見重好 藤波重彦 清水義也 高梨万里

能 「忠信」シテ 宝生和英
      ワキ殿田謙吉 ツレ 高橋憲正
      従者 朝倉大輔 藤井秋雅
      法師武者 小倉健太郎
      武者   小倉伸二郎 和久荘太郎 東川尚史
           川瀬隆士 辰巳和麿 木谷哲也
      囃子 藤田次郎 曽和正博 佃良勝
      後見 武田孝史 金野泰大
      地謡 田崎隆三 辰巳満次郎 野月聡 大友順
         水上優 澤田宏司 亀井雄二 佐野弘宜

 


最高気温356度だったけれど、気合いで着物を着て行ってきました!

楽しかった~!


解説の後、尺八&箏曲&長唄の演奏。
あまり生で聴く機会がないので、新鮮でした。
休憩の後、お待ちかねの能楽コーナー。

 

一調の太鼓は、敬愛する観世元伯さん。

太鼓変えた?って思うほど、普段の演奏の時と音色が違う。

普段は教会の鐘のように空気を浄化するような金属質の音色なんだけれど、

(曲によってはガラス質の風鈴のような時もある)

この日の一調では、もっと硬質で抑制された重い感じ。

でも、相変わらず痺れるような掛け声。

 

仕舞の武田師は、いかにも武家の能といった風情。
地謡も聞き取りやすく、朗々としていてよかった。
大友さんの謡は特に好き。

 

そして舞囃子。

観世宗家の十八番ともいえる《羽衣》。

端正で、格調高くて、きれいだった。

 

観世宗家の場合、能の《羽衣》よりも舞囃子のほうが好きかも。

能がフルコースだとすれば、
舞囃子は、何もつけずに、素材をそのまま味わえる。

足の先から指の先まで、ひとつひとつの動きをじっくり堪能できる。

宗家の丁寧な舞の醍醐味を味わうにはやはり舞囃子がいい。




《忠信》は初めて拝見するけれど、宝生宗家は何年か前から
何度も演じていらっしゃるので、いわば十八番のようなもの。
直面物だし、上演時間が短いから、夏(特に薪能)にはぴったりですね。


囃子方と地謡が着座した後、背後で音がするから、
作り物でも運んでくるのかなと思って、橋掛りの奥を見ると、
義経役の高橋憲正さんが従者を引き連れ、しずしずと進んできます。

登場楽はないので、いつの間にかという印象。

その後、義経は脇座で床几に座り、従者たちも横に控えます。

ワキの伊勢三郎(殿田さん)も登場楽なしで登場。
当山の者たちが心変わりをして義経に夜討ちをかけるので、
義経に逃げるよう進言。


義経と三郎のやり取りの末、防矢を射るのは佐藤忠信が適任ということになり、
いよいよ忠信が登場!

とにかく、スピードが命のこの曲。
シテの忠信の登場の時も、登場楽はなしで、どんどん話が展開していきます。

どこまでも殿についていきたいと辞退していた忠信も
「御意をばいかで背くべき」と最後は承諾し、
「不覚の涙をさへて、御前を立つ」。

ここでシテが少し舞ってから、ツレと従者とワキは退場。


シテは地謡前で物着なのだけれど、ここはほとんどセルフサービス状態。
後見は弓矢を渡すだけで、あとはシテの御家元が自分で鉢巻をセットしたり、
半被を脱いだり……
直面でよく見えるから、おそらくこのほうが素早く着替えられるのだろうけれど、
シテは大忙し。

その後、立衆がずらりと橋掛りに勢ぞろい。
ここで初めて一声の登場楽。

「吉野川、水のまにまに騒ぎ来て、波打ち寄する嵐かな」という
立衆の謡が詞通りの大音響。

夢ねこはいつものように脇正面に座っていたので迫力満点。

シテは脇正に置かれていた一畳台に上って弓矢を打ちます。
この型がかっこいい!

立衆が1人ずつ忠信に斬りかかり、痛快な立会のはじまり。
とにかくテンポが良くて、爽快。

なかには、本舞台から橋掛りへ欄干を越えて飛び移ったりと
アクロバティックな演技が続きます。

川瀬さんの仏倒れもきれいに決まって、心の中で拍手喝采。


宝生宗家の若さと身軽さが存分に生かせる演目で、
能の初心者も絶対に楽しめるスカッと爽やかな一番。
あっという間に終わっちゃったけれど、文句なしに大満足