2015年2月19日木曜日

鎌倉能舞台45周年記念乱能~《安宅》から《高砂》まで



お土産にいただいた特製チケットホルダーとクリアファイル
そして夢ねこを直撃した土蜘蛛の糸

                    
この日の乱能では、舞台上の出演者が見所に向かってお菓子(飴?)を
何度も投げてくださっていました。
主催者の中森貫太さんと奥様が夜なべをして袋詰めした愛のキャンディ。
幸せのおすそわけなのだそうです。

ただ、どなたが投げても幸せのおすそわけは、頭上を過ぎてゆくばかり……。

代わりに直撃したのが土蜘蛛の糸 (_ _。)
              
聞くところによると、土蜘蛛の糸は縁起物で金運のお守りだとか。
そんなわけで、ちゃっかりもらって帰ってきました。






能 《安宅》 
  シテ弁慶 飯田清一 ワキ富樫  野村又三郎 
  アイ強力  奥川恒治  アイ従者 幸正昭
  同山 柿原光博 小野寺竜一 杉信太朗 鳥山直也
     大倉慶乃助 大倉栄太郎 田邊恭資
  義経 久田陽春子
  笛 馬野正基 小鼓 河村晴久 大鼓 河村晴道
   地謡 内藤連  野口隆行  奥津健太郎 大野誠
       一噌隆之 河村眞之介 柿原崇志 殿田謙吉



ここでも配役の妙が随所に効いていました。

飯田清一さんの弁慶、はまり役!
恰幅も良く、バリトンのオペラ歌手のような豊かな声量。
そして品のある物腰と、巧みな間の取り方。
知らない人が見たら、普通にシテ方が弁慶を演じていると思えるほど。


そして、野村又三郎さんの富樫。
終始、宝生閑調のセリフまわしで見所は大ウケ。
面白かったー!
(考えてみるとワキ方でいちばん特徴的なのが宝生閑師だから物真似しやすいのかも。
欣哉さんの真似をしても、宝生閑と思われるだろうし。)


それから、強力役の奥川恒治さん。
万作先生直伝の狂言式すり足が御見事!
普通のシテ方の摺り足と比べると、体重が半減したように思えるほどの軽快さ。
(家に帰って少しやってみたけれど、間狂言式の摺り足って難しい。)


久田陽春子さんの義経も可愛かった。


森常好師がデジカメ持参で後見座に坐り、入場してくる出演者を次々パチリ。
《土蜘蛛》の地謡の時もパチパチ撮っていらっしゃって
もはや能楽界の林家ペー師?


同山役はお囃子軍団。
杉信太郎さんが御自身のブログに「1人のセリフがあるのでどれだけ印象に残れるか」
みたいなことをおっしゃっていたのですが、
「ただ打ち破って御通りあれかし」の箇所だったのですね。
このとき信太郎さんはズンズン前進して、飯田弁慶に迫っていくのですが、
アドリブだったのかな。
信太郎さんのやんちゃキャラが発揮された一幕でした(笑)。


ひそかに注目していた田邊恭資さんの同山。
小鼓打つ時と同様に、まばたきゼロの目をしていて、緊張されてたのかな。
(《土蜘蛛》の地謡の時には、ふつうの好青年の顔に戻られていました。)





能 《鉄輪》  
  シテ女・生霊 善竹十郎 ワキ安倍晴明 久田舜一郎 
  ワキツレ男  白坂信行 アイ社人 古賀裕己
  笛 永島充 小鼓 小島英明 大鼓 坂真太郎 太鼓 柴田稔
  地謡 林雄一郎 小寺真佐人 梶谷英樹
     鵜澤洋太郎 一噌庸二 柿原弘和




善竹十郎さん、板に付いてる。
特に後場の生成をかけた生霊がよかった。

小島英明さんと坂真太郎さんの大小鼓がうまい(とくに小島さんの掛け声)!

柴田稔師の太鼓の後見に元伯さんがついていらしゃって、
ツクツクと御指導されていました(なんとなく社中会みたい)。
ついでに絶句した立方に台詞をつけたりも。





狂言 《蝸牛》  
  山伏 馬野正基 太郎冠者 谷本健吾 主人 駒瀬直也
  後見 遠藤喜久


まさに抱腹絶倒。
馬野&谷本の銕仙会コンビ、面白すぎ!

谷本さんが詞章を覚える時間がなかったらしく
(馬野さんも谷本さんもあちこちで引っ張りダコだから仕方がないのだろうけど)
最初は後見の遠藤さんに台詞をつけてもらっていたのですが、
しまいには懐からアンチョコを取り出して読みあげる始末。
それでも、狂言調の節廻しになっているのはさすがです。

馬野さんの「覚えてこいよ。まったく谷本は愚鈍な奴だ」という言葉に見所大爆笑。
谷本さん自身も笑いが止まらず。

「でんでんむしむし、でんでんむーしむしぃー」と囃している時も
馬野さんが流れ足などの能の型を詰め込んだハードなアクションで見所を沸かせ、
さらに「早く止めてくれ~」と言っては観客を笑わせていました。

アドリブでこれだけ笑いをとるなんてすごい才能。





能 《土蜘蛛》    
  前シテ僧  大藏千太郎 後シテ土蜘蛛 大藏教義 頼光 大藏基誠 
  胡蝶 大山容子 来航の従者 飯冨孔明
  独武者 善竹富太郎 従者 善竹大二郎 川野誠一 
  独武者の下人 徳田宗久
  笛 中村修一 小鼓 八田達弥 大鼓 清水義也 太鼓 田茂井廣道
  地謡  小野寺竜一 大倉慶乃助 田邊恭資
       柿原光博  飯田清一  森常好


少し休憩をとって座席に戻ると、すでに胡蝶は消えていて、
僧形の者が頼光に糸を投げているところでした。

なので前シテの大藏千太郎さんはすぐに中入。

徳田宗久さんの間狂言になったのですが、これがとてもユニーク。
「えーと、立っていると台詞が出てこないので、坐らせてもらいます」と言って、
いきなり坐り出す徳田さん。
頭から絞り出すように吐き出す棒読みの台詞。
ところどころに現代語訳の意訳を織り混ぜて、どうにか間狂言を終え、
ほっと息をつく徳田さんを見て、面白く可愛らしいキャラだなと。


(御自身のブログによると)八田達弥師は小鼓退お稽古を年間続けられたそうで、
気合が入っていてお上手でした。
大鼓の清水さんも太鼓だけでなくこちらもかなりの腕前。
金春流太鼓をされていた田茂井さんもうまいですね。
ほとんどの方がある程度のレベルまで到達していらっしゃるのがすごい。

土蜘蛛の地謡も良かったです。

後シテの大藏教義さん。
「本日の主役」を書かれたステッカー(垂れ幕?)が張られた塚から登場。
糸玉は貴重なので、おそらく投げるのはぶっつけ本番だったと思うのですが、
どれもきれいな放物線を描いて見事でした。
見所にも糸が投げられたのは前述の通り。

独武者との舞働というか、取っ組み合いも面白かった。




半能 《高砂 祝言之式 八段之舞》 
  シテ住吉明神  観世元伯 
  ワキ阿蘇宮神主  吉谷潔 ワキツレ 梶谷英樹 月崎晴夫
  笛 中森貫太 小鼓 谷本健吾 大鼓 味方團 太鼓 中森健之介

  地謡 林雄一郎 藤田貴寛 杉信太郎
     大倉栄太郎 亀井広忠 小寺真佐人 鵜沢洋太郎(飛び入り参加?)



揚幕がパッと上がり、住吉明神が鏡の間の奥から颯爽と登場。
幕離れの大切さを痛感している太鼓方ならではの潔い登場の仕方でした。

透冠に袷狩衣、半切、邯鄲男の男神出立がとても似合う。
謡はもう少し通るかと思っていたのですが、やはり面をかけて謡うのは難しいのですね。
でも、空間感覚は抜群。
橋掛りでの演技はもちろん、
本舞台でも三間四方の空間を存分に生かした神舞はさすがでした。
大小前ぎりぎりまでヒラキ、八段之舞独特の緩急を自在に使い分けながら、
目付柱目指して真っすぐに進んでいく。
翻した両袖を上げて舞う姿もキマッてました。
たぶん、稽古面をつけて(ご自宅の?)能舞台でお稽古されたのではないでしょうか。

とはいえ稽古の時間が一体どこにあったのかと思うほど、超多忙な元伯さん。
まさにスーパーマンだ……。


お囃子は、
かんた先生はお笛もうまいのですね。
味方團さん(先日NHKFMで聴いた《熊野》のワキがきれいでした)は
独特の掛け声だけれど、聞き慣れてくるとそれはそれで味わいがあり、
谷本さんの小鼓との呼吸も合っていました。
中森健之介さんの太鼓は最初はちょっとエンジンがかかっていない感がありましたが、
八段之舞の神舞になると、オイルを差したようにノッてきて、
お囃子全体が盛り上がっていました。


囃子方で固めた広忠さん地頭の地謡はもう最高!
鵜澤洋太郎さんと女流の方が飛び入りされて8人編成になり、すっごい迫力でした。
「今を始めの旅衣」の地謡とか超低音で謡いにくいと思うのですが、きれいな謡。
とくに林雄一郎さんは師匠を盛り立てようと全身全霊で謡い上げているのが伝わってくる。
囃子方の人たちってなんていうか、あたたかい連帯感があります。


最後は静寂のなか、住吉明神が扇を閉じてシテ柱に向き直り、
橋掛りを静かに帰っていく。
演者の一体感を覚えさせる素晴らしい舞台で、感動して涙が出てきました。
こういう真剣な乱能もいいものです。




というわけで、長かったけど夢うつつのうちに終わってしまった乱能。
出演者の方々に今まで以上に親しみが持てて、
もっと、もっと、お舞台を拝見したいと思いました。

採算度外視の公演を企画運営された鎌倉能舞台の皆さん。
出演者の方々。
楽しい時間をありがとうございました!











鎌倉能舞台45周年記念乱能~狂言《六地蔵》から一調まで

          

狂言 《六地蔵》
  シテ 舘田善博 アド 野口能弘 野口琢弘 梅村昌功
  後見 御厨誠吾


能《翁》のあと少し席を離れたので途中から。
すっぱの親玉・舘田善博が、子分役の野口琢弘さんと梅村昌功さんに
「なんでそんなにセリフが棒読みなの?」と言って、
見所が大爆笑しているところから拝見。

田舎者を騙すために、すっぱ3人で別の場所に3体ずつある仏像を演じるのですが、
橋掛りと地謡前をすばやく移動して、異なる印を結ぶ仏像の真似をするという、
「だるまさんが転んだ」状態がとても面白く、狂言でこんなに笑ったのは初めてというくらい。


演者に今まで以上に親しみが持てるのも、乱能の良いところ。




半能 《吉野天人 天人揃》
  シテ 一噌隆之 

  ツレ 柿原弘和 鵜澤洋太郎 小寺真佐人 林雄一郎
  ワキ 河村眞之介 
  ワキツレ大野誠 奥津健太郎 野口隆行
  笛  新井麻衣子 小鼓 弘田裕一 大鼓 内藤連 太鼓 五木田三郎
  地謡 岡本はる奈 鳥山直也 大倉慶乃助
     梶谷英樹  久田舜一郎  古賀裕己
  後見 善竹大二郎 大蔵千太郎


シテの一噌隆之さん。
ふだんの舞台では紋付の襟元を広めに開けて、飄々とした野武士っぽいイメージだったのですが、
増の面をかけ、装束をつけた天女姿はめっちゃ美人!!
これは意外だったなー。 
隆之さんに対する見る目が変わりそう。 
足のハコビも姿勢も舞姿もきれいでした。


ツレの柿原弘和さんは細身の楚々とした嫋やかな美女。
奥ゆかしさすら感じさせます。

そして、同じくツレの鵜澤洋太郎さん。
おそらく《吉野天人》の影の主役は洋太郎さんだったのでは。
(鵜澤さんと森常好さんは笑いをとることに命を燃やすタイプですね(笑))。


足はガニ股だし、面をかけていて正面しか見えないので、
足元を何度も確認する姿が可笑しくて、見所は終始大爆笑。
半分は受け狙いだと思うけれど、でも実際、足元が見えずに舞台端で舞うのって
怖いだろうなー。


橋掛りで舞っている小寺真佐人さんと林雄一郎さん(どちらもきれい)は
独自の世界を創っていて、これはこれで面白い。


弘田裕一さんと内藤連さんの大小鼓と、五木田三郎の太鼓(金春流)もお上手でした。


(補足)
乱能ではさんざん笑ってしまいましたが、
狭い能舞台で三人一緒に舞うのは本職のシテ方でも相当難しいみたい。
脇正面側で舞った洋太郎さんが足元を気にするのも致し方なかったかなと。
(かんた先生がそれを見越して、3人をこういう配置にしたのかも。)




舞囃子 《舎利》
  シテ足疾鬼 深田博治  ツレ韋駄天  高野和憲
  笛 大日方寛 小鼓 御厨誠吾 大鼓 殿田謙吉 太鼓 則久英志
  地謡 中村修一 徳田宗久 観世元伯 藤田貴寛




生真面目にふざけていて、独特のとぼけた可笑しみがある深田さんと高野さん。
足疾鬼と韋駄天の舞働も迫力とキレがあって良かったのですが、
なんだか変な形の舎利壺だなーと思って見ていたら、
まん中がカパッと開いて、中からもじゃもじゃ頭のウィッグが出てきたり、
コントで使うピコピコハンマーで足疾鬼を退治したり。

最後は、もじゃもじゃヅラを地頭の元伯さんに被せて、
シテとツレが元伯さんに扇で叩かれておしまい。
(元伯さんをいじめちゃだめ!)

隣の徳田さんが「若宗家になんてことを!」という感じで、少しオロオロしているのが面白かった。







舞囃子 《鸚鵡小町》 
  シテ 一噌庸二
  笛 鈴木啓吾 小鼓 中森貫太 大鼓 味方健
  地謡 亀井広忠 柿原弘和 國川純 鵜澤洋太郎


一噌庸二師ってお笛の時もそうだけれど、佇まいに品格のある方ですね。
《鸚鵡小町》の曲の位に合っていて、前半の見せ場でした。

鈴木啓吾師の笛がうまく、笛を吹く姿もキマッテいます。
味方健師の掛け声が重厚で渋い。
鵜澤洋太郎さんが地謡座から小鼓のかんた先生に指導するのが大ウケ。 





一調   
    玉之段  柿原崇志           小鼓 梅若猶彦
    遊行柳  河村総一郎          太鼓 清水義也
    笠之段  國川純            大鼓 駒瀬直也





席を立っていたので《遊行柳》の途中から。

清水さんの太鼓(金春流)がかなり上手い!
器用な方なのですね。

國川さんの謡は予想通り味わい深い。
(《鸚鵡小町》の地頭もとても好かった。)
やはり掛け声の好い人は謡も上手いのだろうか。


















2015年2月18日水曜日

鎌倉能舞台45周年記念乱能~《翁》




私がお能にはまってから東京で初めて開催される乱能だったので初体験尽くし。
何もかもがとても新鮮でした。

とりわけ感動したのは、配役の妙。

三番叟に笛方の藤田貴寛師の起用はふつうは思いつかないし、
地謡に柿原弘和さんと亀井広忠さんが並んだ図なんて、
そこはかとないシュールな可笑しさがあったし、
ふざけたお能の後に真剣モードのお能を配するなど
番組構成も計算されていて、巧み。

出演者のキャラクターと持ち味を知り尽くした中森貫太師のコーディネート力の
成せる技なのでしょう。




能 《翁》  
  シテ野村万作 千歳 亀井広忠 三番叟 藤田貴寛 面箱 森常太郎
  笛 中所宜夫 小鼓 中森貫太 遠藤喜久 佐久間二郎 大鼓 森常好
  地謡 飯冨孔明(大倉流小鼓) 吉谷潔 幸正昭 白坂信行 鳥山直也
  後見 中村修一 善竹十郎
  狂言後見 奥川恒治 永島忠侈



通常の翁のように厳粛な雰囲気で出演者入場。

広忠さんの顔が茹でダコのように真っ赤だったのは、
緊張のせいもあるだろうけれど、
たぶん、千歳の装束を着て動くのが暑かったから?
(同じ公演で袴を何度も履き替えるのも、暑がりで汗を大量にかくからだそうです。)

千歳の舞は無難に進行。
(広忠さんの前評判があまりにも良くて、過大な期待を寄せ過ぎていたのかも。)


そして、もう二度と見られないであろう万作さんの翁の舞。
足拍子を踏むごとに、能楽堂が祝賀色に染められていく。
翁面をつけて舞う姿は、乱能ということを忘れさせるほど格調がありました。


肝心のお囃子は、さすがは九皐会のメンバー。
中所さんの笛もうまいし、小鼓部隊もだいたい息が合っていて見事でした。
とくに、かんた先生の気迫のこもった掛け声は本職並みで、かっこいい!

大鼓の森常好師は、あの美声と体格から迫力満点の演奏を期待していたのですが、
完全に受け狙い(?)に走っていたのか、
聞かせどころの揉み出しから、力なく、しょんぼりした声。
(大鼓を打つ手が痛そうでした。お稽古のしすぎで傷めたのかしら。)


小鼓隊も三番叟の中盤からお遊びモードに入って、
脇鼓の佐久間二郎さんが、汗をふくと見せかけて、懐から何やら布を取り出し、
開いたらタスキになっていて、肩にかけると「本日の脇鼓」の文字が……。


そして、三番叟の藤田貴寛さん。
(今年のお正月に宝生会で聞いた貴寛の《翁》の笛が今でも耳に残っています。)

声を聞くのは初めてだったけれど、思いのほか豊かな声量。
笛方は掛け声は出しませんが、演奏で肺活量が鍛えられるからでしょうか。
(というか、笛を吹くために肺を鍛えていらっしゃるのかな。)

横足の数が足りなかったり、抜き足が曖昧だったりと、
本職の狂言方のようにメリハリのある拍子の型にはならなかったのですが、
袖返しはきれいでした。

揉ノ段ももちろんですが、とくに鈴ノ段は鈴を振るリズムと足拍子のリズムが
違っていてとても難しいと思います。
あまり違和感なく舞ってらっしゃったのはさすがでした。



地謡も良かったです。
(太鼓方の吉谷潔師は福岡から駆けつけて、最初から最後まで勤められたのですね。
たまにしか拝見できないので太鼓好きとしては嬉しい!)


乱能の地謡って、囃子方や狂言方・ワキ方で構成されるのですが
《翁》に限らず、総じてうまかったです。

特に囃子方の地謡は、日ごろから掛け声で喉を鍛えているし、
舞台で互いに間合いを計ったり、呼吸を合わせたりしているからでしょうか、
とても統率がとれていて、生半可なシテ方の地謡よりも好いくらい。






















2015年2月17日火曜日

はじめての乱能~鎌倉能舞台45周年記念

2015年2月17日  国立能楽堂  10時開演

能 翁  10:0011:00

  シテ 野村万作 千歳 亀井広忠 三番叟 藤田貴寛 面箱 森常太郎
  笛 中所宜夫 小鼓 中森貫太 遠藤喜久 佐久間二郎 大鼓 森常好
     地謡 飯冨孔明(大倉流小鼓) 吉谷潔 幸正昭 白坂信行 鳥山直也
  後見  中村修一 善竹十郎
  狂言後見 奥川恒治 永島忠侈


狂言 六地蔵 11:0011:30
  シテ 舘田善博 アド 野口能弘 野口琢弘 梅村昌功
  後見 御厨誠吾


半能 吉野天人 天人揃 11:3012:00
  シテ 一噌隆之 

  ツレ 柿原弘和 鵜澤洋太郎 小寺真佐人 林雄一郎
  ワキ 河村眞之介 
  ワキツレ 大野誠 奥津健太郎 野口隆行
  笛  新井麻衣子 小鼓 弘田裕一 大鼓 内藤連 太鼓 五木田三郎
  地謡 岡本はる奈 鳥山直也 大倉慶乃助
     梶谷英樹  久田舜一郎  古賀裕己
  後見 善竹大二郎 大蔵千太郎

 

舞囃子 舎利 12:0012:20
  シテ足疾鬼 深田博治  ツレ韋駄天  高野和憲
  笛 大日方寛 小鼓 御厨誠吾 大鼓 殿田謙吉 太鼓 則久英志
  地謡 中村修一 徳田宗久 観世元伯 藤田貴寛



舞囃子 鸚鵡小町 12:2012:50
  シテ 一噌庸二
  笛 鈴木啓吾 小鼓 中森貫太 大鼓 味方健
  地謡 亀井広忠 柿原弘和 國川純 鵜澤洋太郎


一調   12:5013:10
    玉之段  柿原崇志           小鼓 梅若猶彦
    遊行柳  河村総一郎          太鼓 清水義也
    笠之段  國川純            大鼓 駒瀬直也


能 安宅 13:1014:40
  シテ弁慶 飯田清一 ワキ富樫  野村又三郎 

  アイ強力  奥川恒治  アイ従者 幸正昭
  同山 柿原光博 小野寺竜一 杉信太朗 鳥山直也
     大倉慶乃助 大倉栄太郎 田邊恭資
  義経 久田陽春子
  笛 馬野正基 小鼓 河村晴久 大鼓 河村晴道
   地謡 内藤連  野口隆行  奥津健太郎 大野誠
       一噌隆之 河村眞之介 柿原崇志 殿田謙吉

 

能 鉄輪   14:4015:40
  シテ女・生霊 善竹十郎 ワキ安倍晴明 久田舜一郎 

  ワキツレ男  白坂信行 アイ社人 古賀裕己
  笛 永島充 小鼓 小島英明 大鼓 坂真太郎 太鼓 柴田稔
  地謡 林雄一郎 小寺真佐人 梶谷英樹
     鵜澤洋太郎 一噌庸二 柿原弘和



 
狂言 蝸牛  14:4015:40
  山伏 馬野正基 太郎冠者 谷本健吾 主人 駒瀬直也

  後見 遠藤喜久


能 土蜘蛛  16:1017:00
  前シテ僧  大藏千太郎 後シテ土蜘蛛 大藏教義 頼光 大藏基誠 
  胡蝶 大山容子 来航の従者 飯冨孔明
  独武者 善竹富太郎 従者 善竹大二郎 川野誠一 
  独武者の下人 徳田宗久
  笛 中村修一 小鼓 八田達弥 大鼓 清水義也 太鼓 田茂井廣道
  地謡  小野寺竜一 大倉慶乃助 田邊恭資
       柿原光博  飯田清一  森常好

 

半能 高砂 祝言之式 八段之舞 17:0017:30
  シテ住吉明神  観世元伯 
  ワキ阿蘇宮神主  吉谷潔 ワキツレ 梶谷英樹 月崎晴夫
  笛 中森貫太 小鼓 谷本健吾 大鼓 味方團 太鼓 中森健之介

  地謡 林雄一郎 藤田貴寛 杉信太郎
     大倉栄太郎 亀井広忠 小寺真佐人 鵜沢洋太郎(飛び入り参加?)





待ちに待った初めての乱能!!
朝10時から夕方5時半までの長丁場でしたが、あっという間に終わってしまいました。
楽しいことは瞬く間に終わっちゃうんですね。

完売公演の自由席。
熾烈な座席争奪戦になることを予想して少し早めに出たのですが、
着いたのは開場の15分前。
(着物を着て通勤電車に乗るのは至難の技。もう、帯がぐちゃぐちゃ。
女性専用車に乗ったから込み具合はましだったけど。)


千駄ヶ谷の駅に降り立ったら吹雪いていて、
雪のなか外で待つのかなと心配していたのですが、
国立能楽堂内に入れてもらえて、ロビーで並んで開場を待つことができました。

開場15分前でも200人くらいは並んでたでしょうか。
うーん、みなさん、凄いパワーですね。

とはいえ、多くの人は正面席を目指すので、
自分の好きな脇正面前方は余裕で取ることができました。
ラッキー♪ 


今日は疲れたので、それぞれの感想は明日以降にアップしていこうと思います。






2015年2月13日金曜日

観世能楽堂・楽屋見学ツアー

                                    
                         
  (13時半開場、14時開演)

                  


能舞台の解説  坂井音晴

仕舞 《高砂》   木月宣行
   《羽衣》    坂口貴信
       地謡 観世芳伸、坂井音晴
     (参加者は見所にて舞台を拝見)

楽屋見学 パート1 
         御簾の間
         囃子の間 (+焙じ室)
         狂言の間
         脇の間
         シテ方の間

              御家元の間(中へは入らず拝見のみ)
         装束の間

(シテ方の間にて)謡のお稽古体験&
能面・装束の説明

楽屋見学 パート2
             鏡の間、広廊下、切戸口

  (15時15分終了)




                                     

                                         

観世能楽堂「さよなら公演」の特別企画、楽屋見学ツアーに行ってきました。


個人的にもこうして楽屋内を拝見するのは初めてだったのですが、
観世能楽堂自体、楽屋見学ツアーを開催するのは初めて(そして松濤では最後)だそうです。

上記のように、仕舞あり、謡体験ありで、単なる楽屋見学以上の充実ぶり。


もうすでに定員いっぱいいっぱいでキャンセル待ちとのことで、
この日も定員30人のところ、参加者は約40人。
                                                  
              
しかも日経の取材も入っていたので、
ツアーコンダクターの4人方(観世芳伸師、木月宣行師、坂口貴信師、坂井音晴師)は
てんてこまいだったようです。

(当初ツアコンは3名の予定だったそうですが、参加者が増えたため、
芳伸師が急遽呼ばれたそうです。)

                
これからツアーに参加される方々にはネタばれになってしまうので、詳しくは書けませんが、
案内していただいた時に、芳伸師からいろんなこぼれ話やウンチクをうかがえて、
とても楽しかったです。

(こぼれ話メモ)
・唐織を新しく注文すると500万~数千万円かかる。
・能楽師は芸の上達祈願として、宗家所蔵最古の蜻蛉の法被(《朝長》の装束)から剥落する金糸を舐める。
・その蜻蛉の法被の絹糸はペルシア産のもの。 シルクロードで運ばれ、中国から足利将軍に献上された絹糸で法被の生地が織られた。
・道成寺の鐘の重さが100キロもするのは鐘の縁に藁を詰めてあるから。
・能面の良し悪しは口元で決まる、口元がキリッとしているのがいい。
・火事の時に観世宗家が真っ先に持って逃げるのは花伝書。
・能面は、塗りが剥落しないように、紐を通す孔のところを持つ。
・唐織を着た時は、左手は印を結び、右手は褄を押さえる。
・シテは揚幕が上がると、笛柱をめざして橋掛りを進む。



楽屋の中庭では美しく咲いた紅梅に鶯が戯れていて、一幅の絵のようでした。


                                
                 
楽屋内を拝見して思ったのが、
シテの間は地謡もいらっしゃるのでそれなりの広さはあるのですが、
囃子・狂言・脇のお部屋が意外に狭いこと。

特に囃子方って、それぞれの後見も入れると相当な数になると思うのですが、
あれだと(6~8畳1間くらい?)スシ詰め状態なんじゃないかなー。


             
焙じ室も隣接しているので、猛暑日には灼熱地獄になるかも。
                 
                
(お囃子好きなので、つい、囃子方に同情的になってしまいます。)



それと、
ふだん見所からは分からないのですが、
切戸口から見ると、舞台上のよく使用される場所には
擦れた跡がたくさんついていて、
観世能楽堂43年の歴史が刻まれたような味わい深い趣がありました。

楽屋は各部屋や廊下がとても効率よく配置され、
長い年月をかけて洗練を重ねたうえで生まれた「用の美」のデザインなのだと
あらためて気付かされます。

能楽師の方々もテキパキと効率よく立ち回らないと邪魔になるので、
無駄のない動きが要求されるのでしょう。



こうして楽屋まで拝見すると、
松濤の能楽堂がよけいに名残惜しくなりますね。



能楽師の聖域、鏡の間で拝見した揚幕が上がる瞬間は印象的でした。
橋掛り、舞台、見所。
世界が開かれる瞬間。
非日常的な空間感覚。
あの世からこの世への誕生の瞬間。
胎児が子宮から生ま出る瞬間もこのようなものなのでしょうか。



思い出に残る貴重な体験でした。
企画してくださった観世会の皆様、
そして案内してくださった能楽師の方々、
ありがとうございました!


 


       

2015年2月8日日曜日

「何にもならない」一生を「ただ生きる」


                      

                                  
生きていると、どうしようもなく、むなしくなる時があります。


今まで何のために生きてきたんだろう。

今まで何のために努力してきたのだろう……。

そんな「生のむなしさ」にとらわれた時、手に取った本に救われることがよくあります。


昨夜、ふと繙いた本(ネルケ無方『ただ坐る』)の言葉が、自分にとっての啓示となりました。
(その言葉を以下に抜粋します:太字部分)




参禅者たちによく聞かれます。
 
「坐禅をして何になりますか?」
 
実は答えは極めて簡単、「何もならない」です。

(中略)坐禅をしても、本当に何にもなりません。

……「何にもならない」からこそ、坐禅がいいのです。

人間の一生も、結局、何かになるようなものではありません。

しかし、この「何にもならない」一生を、「ただ生きる」ことが重要なのです。

今の日本人に足りないのは、ただ生きることに自信を持つことだと思います。

何にもならない、この一生をただ生き抜くというキモが据わっていなければ、
 
芯のない生き方・中途半端な生き方になってしまいます。
 
              ――ネルケ無方『ただ坐る』(光文社新書)





何か価値のある目標を持ち、それを達成することが
人生の成功であり、幸せなのだという錯覚。

目標達成のために時間を費やすことこそが
時間の有意義な過ごし方だという思い込み。

私もそうした幻想にとらわれ、「何かを追い求める」「何かを達成する」
という呪縛からなかなか抜け出せない人間の一人です。


過去に自分の心の問題で悩んでいた時期、
八王子の松門寺という禅寺に数年間参禅したことがあります。

その時は参禅によって精神的危機から抜け出すことができたのですが、
その後、坐禅からはしばらく遠ざかっていました。

ネルケ師の著書を読んで、ふたたび禅に向き合ってみようと思いました。
久しぶりに姿勢を正して坐禅を組んでみると、頭がすっきりして気持ちのいいものです。


ネルケ師のわかりやすい坐禅指導はこちらのYoutubeにアップされています。
https://www.youtube.com/watch?v=FIV2H8QLn4w


さらにネルケ師は「坐禅をしても何もならない」ということについて、
著書の後半でこのように述べています。



坐禅しても、修行しても何もならないというのは、
先ず見返りなど何も期待してはならないということです。

修行の一つ一つを単なる手段と捉えず、
今ここ・この瞬間の修行に自分の命の全てを見出し、
全自己を投入することです。

志のない人が目の前にぶら下がっている人参をいくら追い続けても、
結局はそれを得られません。

坐禅にしても、人生にしても、挫折・幻滅して辛い思いをするのは
周りがそうさせているのではなく、本人が全身全霊を打ち込まず、
見返りばかり期待していることが原因である場合が多いのではないでしょうか。



ガツンッとくる言葉です。

私が「生のむなしさ」を感じるのも、
一瞬一瞬を、身を入れて真剣に生きていないからだと思い至ります。

失望するのも、幻滅するのも、
見返りばかりを求めてしまっているからなのです。


日々是修業。
(難易度高いですが)見返りを求めず、全身全霊で今を生きる生き方を目指したいものです。











2015年2月4日水曜日

創生劇場 邦楽仕舞「船弁慶 静御前と平知盛」


邦楽仕舞「船弁慶 静御前と平知盛」
~能楽に邦楽囃子を加えた新しい邦楽仕舞を創作・初上演


豊嶋晃嗣、金剛龍謹(金剛流シテ方)

望月清三郎(邦楽小鼓・太鼓)、藤舎伝生(邦楽篠笛)

杵屋浩基(長唄三味線)、杵屋勝彦(長唄唄方)

 


                      
丸の内南口のKITTEアトリウムで「京あるきin東京2015」という
おもしろいイベントがあったので行ってきました。



お目当ては金剛流能楽&邦楽囃子&長唄のコラボ、
創世劇場・邦楽仕舞《船弁慶》。








こういうコラボ企画っていまいちミスマッチなものが多く、
それほど期待してなかったのですが、良い意味で
予想をはるかに裏切る素晴らしい舞台でした!



「邦楽仕舞」といっても、
前場の静御前と後場の平知盛とでそれぞれ舞囃子の構成になっています。







前場の静御前は豊嶋晃嗣さんが舞い、
金剛龍謹さんが地謡とシテの謡の半分(?)を受け持ち、
そこへ長唄の唄と三味線が絡み、
さらに邦楽の篠笛と小鼓が入るという、
文字にすると、「どないやねん?」みたいな感じなのですが、

これが摩訶不思議に調和して、
なんともいえない独特の《船弁慶》の世界が生まれていて新鮮な驚き。




特に、三味線ってお能に合うのかしら?と思っていたけれど
(萬斎さんも「三味線が入ると足が止まる」と言っていたような)、
豊嶋晃嗣さんの繊細優美な静の舞と、
しっとりした三味線の音色とがうまく融合して
柔らかく、たおやかな中之舞になっていました。



(呂中干ノ地の篠笛+三味線って最初は少し違和感があったけれど、
小鼓が緩衝剤となり、さらに豊嶋さんのどこか京舞を彷彿とさせる雅な舞が
すべてをまとめあげ、調和させていたようです。)



そして中入り後、篠笛による早笛の旋律とともに
知盛役の龍謹さんが長刀を手にして登場。


能舞台よりも狭いステージだし、観客がかなり前まで進出しているので、
長刀を使うのはかなり窮屈で難しそうだったけれど、勇壮な知盛でした。


前場で小鼓を打っていた望月清三郎さんは後場では締太鼓にチェンジ。
邦楽の太鼓は能楽の早笛の譜に似ているけれど、ちょっと違っていました



いずれにしろ、
これだけ異質のものを調和させて素敵な舞台をつくりあげるなんて、
アレンジのセンスに脱帽。

今度はもっと静かな能舞台で見てみたいな。

 

それから、金剛流のイメージも良い意味でくつがえりました。

それまでは宗家シニアをはじめごく一握りの金剛流シテ方の舞台しか
拝見したことがなかったので、もっと豪快で大味な芸という印象だったのですが、
これだけ洗練された芸技をもつ若手もいらっしゃるんですね。

もっと東京でも金剛流の若手の公演があればいいのに。