2016年4月21日木曜日

梅若会定式能4月《熊野・読継之伝・村雨留》終曲まで

梅若会定式能4月《熊野・読継之伝・村雨留》花見の道中まで」からのつづき

能《熊野・読継之伝・村雨留》シテ熊野 梅若紀彰
      ツレ朝顔 山中迓晶 
      ワキ平宗盛 舘田善博 ワキツレ 野口能弘
      藤田貴寛 幸清次郎 亀井実
      後見 梅若長左衛門 川口晃平
      地謡 会田昇 山崎正道 鷹尾維教 内藤幸雄
         鷹尾章弘 松山隆之 土田英貴 梅津千代司



花見の酒宴で中ノ舞・村雨留】
牛車から降りた熊野は、母の病気平癒を祈願して「清水の観音さん」に合掌。
そこへ花見の酒宴が始まったとの報らせが入る。

熊野はけなげにも宴を盛り上げようと脇正を向き、ほろ酔い気分の宴客に向かって、「さあ、この見事な桜を歌に詠みましょう!」と呼び掛ける。

ここからクリ・サシ・クセ。

サシの「花前に蝶舞う芬芬たる雪」が花下の舞を予告する鐘のように響き、
シテの微動だにしない典麗な下居姿の、黄金比で造形された彫刻のようなフォルムが観客を魅了する。


この美しい彫刻をうっとりと鑑賞するなか、諸行無常を説いたクセが流れ、
平家の栄耀も、熊野の容色も、衰亡の定めを免れないことが示される。


清水寺の酒の宴。
何もかもすべては、うららかな春の日のひとときの夢。


立ちい~でて峰の雲~


雲霞がたなびくように咲き誇る桜に、滅びの予感をしのばせながら、
熊野は静かに立ち上がり、舞い始める。

扇を上げて酒を汲み宗盛に酌をして、「深き情けを人や知る」でシオリ、立ち上がって橋掛りへ行き、二の松でしばし立ち止まり、戻りながら中ノ舞へ入ってゆく。

ここの足拍子のほとんどがやや強めだったのは、熊野の胸の内の焦燥感、「今この瞬間にも母の命が消えてしまうかもしれない」という焦りや苛立ちの表現だったのでしょうか。


とつぜん降り始めた村雨に花が散らされ、熊野は中ノ舞二段でぷっつりと舞い止める。
観客の心に、熊野の影が陽炎のようにまだ舞い続けているような余韻を残して。



【短冊ノ段→終曲】
正中下居したシテは、左袂から縦に三つ折りした白紙の短冊を取り出して開き、右手に持った閉じた扇を筆に見立てて、床上の墨に筆先を浸けるべく、沈思黙考するようにゆっくりと、優雅な所作で扇を床に下ろしてゆく。

そして短冊にさらさらと何かを書きつけ、右手で扇を開き、扇に短冊を載せて立ち上がる。


短冊のアシライが急ノ舞のようなアップテンポに変わり、熊野は自作の歌を宗盛に捧げる。
(テンポの速い囃子と熊野の真剣な行為とのミスマッチがなぜかコミカル。
→ここで急展開になるからこういう囃子なのかな?)


いかにせん都の春も惜しけれど、なれしあづまの花や散るらん  


熊野の歌に心打たれた宗盛は、君がそこまで言うのであれば、と熊野の帰省を許す。

熊野の望みを叶えてあげたい気持ちと、彼女を手放したくない思いとの間で揺れ動きつつも、最後は男気を見せた宗盛。
舘田さん演じる宗盛にはそうした心の動きがさりげなくあらわれていた。


喜んだ熊野は立ち上がっていったん幕前まで行き、一の松に戻って雲ノ扇で「明けゆくあとの山見えて」と山をのぞみ、「東に帰る名残かな」と都の春への心残りをちょっぴり滲ませながら東路を急ぐ。


宗盛に対する熊野の気持ちは最後までとらえどころがなく、永遠の謎。

二人にとってはこれが今生の別れとなり、
彼女が再び京の都を訪れることはなかったのだろうか。






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