2017年1月26日木曜日

能楽フェスティバル第一部~それ、まことの花なり《隅田川》前半

2017年1月25日(水)  14時30分~16時26分  国立能楽堂

狂言《神鳴》シテ山本東次郎 アド山本則俊
   後見 若松隆 
     地謡 山本泰太郎 山本則孝 山本凛太郎

能《隅田川》シテ野村四郎  
   ワキ宝生欣哉 ワキツレ殿田謙吉
   子方清水義久
   藤田六郎兵衛 観世新九郎 亀井忠雄
      後見 浅見真州 野村昌司 
      地謡 梅若玄祥 武田宗和 岡久広 青木一郎

      清水寛二 駒瀬直也 坂井音隆 松山隆之 




《隅田川》は名曲とは思うけれど、演者・演出によっては写実や感情に傾きがちで、
なんとなく苦手な曲でもあった。

でも、この日のシテの演じ方は非常に抑制が利いていて、
三役も地謡もそれぞれがレベルの高い個人芸を融合させて観客を魅了し、
深い悲しみのなかにも品位と透明感のある《隅田川》だった。



〈名ノリ笛→次第〉
藤田六郎兵衛さんの名ノリ笛。
曲趣に合わせて、吹き込みが柔らかく、どこか物哀しい。
肌寒い春風が花びらをのせて吹くような繊細な音色。


笛の音に誘われるように、ワキの船頭が登場する。
《隅田川》で定番となった紺地に桜模様の素袍上下。手には扇。
ハコビはいつもながら美しく、それでいて少し早め。
微妙なさじ加減をどうやってはかるのかは本当に謎で、神業のようだけれども、勅使でも、旅僧でもない、船頭のハコビになっている

欣哉さん演じる船頭は彼自身にも暗い過去があるような、影のある男に見える。

こういう陰翳を自然に滲ませるところが欣哉さんの芸の深みでもある。


次第の囃子でワキツレ登場。
装束は薄茶の素袍上下で、ワキとかぶらない配慮。
殿田さんをワキツレに使う贅沢な舞台(この方の船頭も観てみたい)。


〈一声〉
小鼓の特殊な手が入って狂女越一声となり、
物見高い群衆の歓声や狂女の焦燥感・渇望感のようなものが派手な手組で表現される。
越シの手が終わり、二段目になってシテが登場。

出立は、青みがかった白い水衣に濃紺の縫箔腰巻。笠を被り、手には笹。
面は深井だろうか、美しい中年の女面。

とりわけ謡う時には笹の葉の震えが気になるが、カケリになると手の震えもそれほど気にならず、とくに舞台後半は震えがほとんどなくなり、シテの姿の美しさが際立った。


「尋ぬる心の果てやらん」で、シテは笠の縁に手を掛け、来し方を振り返るように目付柱を少し見上げて、都から遥々隅田川までやって来た、その果てしない道のりをほのめかす。

時間の長さと空間の距離感。
それに比例する我が子への恋しさ。

道中に味わったさまざまな苦難、屈辱、絶望……それでも我が子に会いたいという身を切るような思いをしみじみと感じさせる所作と面使い。


手や面をごくわずか、ほんの微かに動かすだけで、多くを物語り、多くを表現する。
静かで、内に秘めた、暗示的な《隅田川》。




《隅田川》後半につづく








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