2017年10月21日土曜日

宮内庁雅楽演奏会

2017年10月21日(土)14時30分~16時 皇居・宮内庁楽部

2階から見た舞台
手前向かって右から鞨鼓、楽太鼓、鉦鼓。
奥にあるのが、右方用の大太鼓(右)と左方用大太鼓(左)

【曲目】
(1)管弦: 盤渉調音取・青海波・千秋楽
(2)舞楽: 陵王・胡徳楽


嬉しいことに、今月は雅楽鑑賞の機会に恵まれ、この日が第一弾!
曲目にちなんで、鼓青海波の地紋入り色無地に向い鶴の袋帯を締めていくつもりだったけど、雨のなか開場前に着物で並ぶなんてムリッ!と思い、断念。
10月なのに雨ばかり……。



こちらは1階から見た舞台
開場20分くらい前に着いたのですが、すでに途方もなく長~い列。
でも、ラッキーなことに1階最前列に座れました。
2階のほうが全体を見渡せていいいらしいけど、演者の息遣いや動きを感じたかったから。




左方(唐楽)用大太鼓
 ↑舞台向かって左にあるのが、左方(唐楽による舞楽)に使われる大太鼓。
縁飾りには、阿吽の昇龍。
鼓面が三つ巴で、竿先に日輪がついているのが特徴。
鼓面の色彩も、下↓の右方用の大太鼓に比べて華やか。




右方(高麗楽)用の大太鼓
↑向かって右にあるのが、右方(高麗楽による舞楽)に使用される大太鼓。
縁飾りには、鳳凰、鼓面が二つ巴で、竿先には月輪がついています。





大鉦鼓
↑左右それぞれの大太鼓の脇にある大鉦鼓。
こちらも大太鼓と同じく舞楽用で、左方・右方に合わせてそれぞれ昇龍と鳳凰が火炎形の縁飾りに彫刻されています。



さて、肝心の雅楽演奏はとっても素晴らしく、この空間ならではの独特の雰囲気があって堪能しました。
まずは、「管絃」から。
管絃とは、舞楽のメインとなる「当曲」の部分を管絃編成で演奏するもので、「音取」という短い前奏曲が奏されます。これにより盤渉調や黄鐘調といった、曲の調子の雰囲気が醸成されていくのです。


〈盤渉調音取〉
能楽囃子にも盤渉音取があるけれど、それとはだいぶ違っていて、
音取は、各楽器の音頭(リード奏者)のみが演奏。まずは笙から吹き始め、篳篥、鞨鼓と演奏に加わり、最後に琵琶と筝が弾き始めます。
海面の水平線の彼方が、ほのぼのと白みがかっていくような雰囲気。



〈青海波〉
『源氏物語』の「紅葉の賀」で、光源氏と頭中将が舞ったことで有名な曲。

もとは平調の曲だったのが、9世紀前半の仁明天皇のときに、勅命によって盤渉調に移されたというから、『源氏物語』が書かれたときにはすでに盤渉調だったことになります。

ほかの管絃と同様、横笛から吹き始め、鞨鼓がアンサンブル全体の統一者となって、最初はゆっくりとしたテンポで始め、徐々にテンポをあげていく。
打つ、というよりも、掻き鳴らすような独特の演奏法で、鞠が弾むようなトレモロ奏法を多用。

琵琶がとくに素敵で、能楽師のようなキリッと背筋を伸ばした座り方ではなく、ゆったりと腰を後ろに引き気味に座り、絃を掻き鳴らす手がじつに優雅で、舞の手のように見えます。
音色も穏やかな響きで、旋律を弾くのではなく、清らかな水の雫が零れるような、光のきらめきを感じさせる装飾音を奏でてゆく。

《青海波》の後半には、打楽器のリズムのパターンが変化し、「千鳥懸」や「男波(おなみ)」「女波(めなみ)」などの打法が加わります。

全体的に、波の穏やかな大海原に美しい朝日が昇ってゆく情景を思わせる曲でした。



〈千秋楽〉
これも横笛から始まり、鞨鼓、鉦鼓、小・篳篥が純に加わり、絃楽器が音頭から参加して、もう一人の琵琶奏者も加わって、音に厚みを増していきます。
この曲を聴いていると、錦秋に輝く古刹の伽藍が目に浮かんでくるようです。



さて、休憩をはさんで、いよいよ舞楽。

〈陵王〉:左方舞(唐楽の舞楽)、調子は壱越調
もっともメジャーな舞楽といってもいいほど、有名な曲。
北斉(550~577年)の蘭陵王長恭が容姿があまりにも美しく、軍の士気が上がらなかったため、獰猛な仮面をつけて戦場に臨んだところ、大勝利を収めたという故事にちなんで作曲されたといいます。

陵王に扮した舞人は、龍を戴いた吊り顎の面をつけ(目も上下に動くそうですが目の動きはわからず)、毛縁裲襠という、縁に毛のついた唐織の貫頭衣を身につけます。

曲の構成は以下の通り;
(1)小乱声
(2)乱序→舞人が登場し、出手(でるて)を舞う。
(3)囀(さえずり)→無伴奏部分(ここはカットされたかも?)
(4)沙陀調音取
(5)当曲→曲のメイン
(6)乱序→舞人が入手(いりて)を舞い、退場。

舞楽のメインとなる当曲では、舞人は右手に金の桴を持ち、左では、人差し指と中指を突き出し、他の指を折る「剣印」という印を結んだ恰好で、
手足の動きを組み合わせた「掻合(かきあわせ)」や、足を横に開いて腰を低く落とす「落居」、頭を片方に傾けてから大太鼓に合わせて反対側をキッと向く「見(みる」などのさまざまな舞の手を組み入れて、勇壮かつ優雅に舞っていきます。


舞楽のなかでは比較的テンポの速い走舞とはいえ、唐楽らしく洗練された格調高い舞でした。



〈胡徳楽〉:右方舞(高麗楽の舞楽)、調子は高麗壱越調)
こちらは左方舞とは打って変わって、高麗楽らしい親しみやすさ。
主人と四人の客の酒宴で酒を注ぐ「瓶子取(へいしとり)」が、主人の目を盗んで酒を飲み、最後はへべれけに酔ってしまうという、喜劇調の黙劇。
瓶子取は太郎冠者のようなキャラクターだから、狂言の原型のような舞楽でした。

唐楽とは違い、高麗楽には笙は加わらず、管楽器は篳篥と高麗笛のみ。
また、鞨鼓の代わりに三ノ鼓が使用されるため、あの特徴的な鞨鼓のトレモロも入らず、音楽の雰囲気が左方舞とはかなり異なります。

さらに、高麗楽では退場楽が省略されるので、曲の構成は以下の通り;

(1)意調子→舞人(客役)二人登場したのち、勧盃(主人)、瓶子取、舞人二人の順に登場。
(2)当曲→舞人二人が出手(ずるて)を舞ったのち、所定の位置に着座。後から来た舞人二人が舞っている隙に、瓶子取が酒を盗み飲みする。
客人や主人が遠慮し合って、互いに酒をすすめ合うので、その間を瓶子取が右往左往するのも見どころ。客席からは笑いが。

舞人(宴席の客)四人の出立は、左方の襲装束(袍は着けない)に、酔客らしく、赤ら顔の長い鼻の面をつける。この面は、西域から来た胡人を模したものでしょうか。
面の鼻は、主賓の面以外は可動式で、寸劇の中で、長い鼻が邪魔で盃を飲みにくいのを、瓶子取が鼻を持ち上げて、無理やり飲ませるというオチになっています。
(芥川龍之介の『鼻』を思い出す。)


瓶子取は、牟子という頭巾に笹をさし、腫面という左右非対称に顔の醜く腫れあがった黒い面をつける。この面は、おそらく病を患い、その昔、不当に差別された人の相貌をかたどったものかもしれません。ヨタヨタと腰を曲げ、背中を丸めて歩く姿からも、聖書にも描かれた、彼の人々の暗い歴史が妖気のように漂ってきます。


勧盃(主人)の出立は、この曲が元は唐楽だったためか、左方の襲装束に緋色の袍、唐冠を被り、手には笏を持つ。
面は、「進鮮利古(しんそりこ)」という、神に薄衣を張って、抽象化した人面を描いた雑面。
太秦の牛祭で観た面に似ていて、秦氏との関連で考察してみるのも面白そう。


舞楽の時は楽人(管方)は舞台奥へ
↑舞楽の時は、管方(楽器演奏者)は、大太鼓の後ろの席へ移動。
大太鼓奏者も、背後から太鼓を打ちます。




白州っぽい玉砂利
能楽堂の白州のような玉砂利があるけれど、観客席の下も玉砂利になっているので、否応なく、玉砂利の上を歩くことに。