2015年8月14日金曜日

相模原薪能・狂言《千鳥》・能《葵上》

2015年8月13日(木) 曇り時々晴れ 18時半~20時半  相模女子大グランド特設舞台



能楽解説    東川光夫
火入れ式

仕舞 《八島》   野月聡
    《鵺》     金野泰大
       地謡 金森良充 小倉健太郎→當山淳司 小倉伸二郎 朝倉大輔

狂言 《千鳥》 太郎冠者 山本則俊   酒屋 山本則重
          主人 若松隆

能  《葵上》 六条御息所の生霊 宝生和英  照日の巫女 藪克徳
          ワキ 則久英志  ワキツレ 舘田善博 アイ 山本則秀
          栗林祐輔 飯冨孔明 大倉慶乃助 林雄一郎
     後見 東川光夫 小倉伸二郎 木谷哲也
     地謡 辰巳満次郎 野月聡 水上優 和久荘太郎
         當山淳司 佐野玄宜 金野泰大 小倉健太郎→若手シテ方

      


西日本への弾丸ダブル帰省を終えて、久々の観能。

この日は雨予報に反して絶好の薪能日和で、夕方の気温は28度。
吹き抜ける風が涼しくて気持ちいい。

運良く前方の指定席が取れたため、ことのほか至近距離で楽しめた。
(おまけに前の席の人が来なかったので、視界を遮るものがない最高のポジション!)


まずは、東川師による能楽解説(シテ方の例に漏れず、お話が上手)。
《葵上》で演じられているのは、照日の巫女の頭の中の情景を劇として映し出したものという言葉が印象に残った。


仕舞《八島》の野月さんは、白い麻紋付に水色の袴姿という爽やかな出で立ち。
武士っぽい宝生流のなかでもとりわけサムライ的な雰囲気を持つ野月さんの《八島》は
キリリと引き締まって、辛口の冷酒のような味わい。

夕闇に包まれた金野さんの《鵺》は、名を上げた頼政と名を流した鵺という
勝者と敗者の明暗をくっきりと浮かび上がらせていた。

(地謡の小倉健太郎さんはお休みだったらしい。ちょっと心配。)


 
狂言《千鳥》
則俊師の太郎冠者と則重師の酒屋の掛け合い・間合いが絶妙で、場内爆笑。
お子さんの笑い声も聞こえてきたので、子供にも分かりやすかったみたい。
文句なしに面白かった!

装束のシワが少し気になったけれど、こういう薪能の楽屋は狭くて空調もないだろうから、
致し方ない。着替えるだけで汗だくになるだろうし。
出演者と主催者の苦労がしのばれる。



能《葵上》
皆さん休み明けなのか、こざっぱりと髪をカットした出演者多し。
加えて能楽堂の照明と異なるせいか、一部の人は顔がふだんとは違って見える。
(全体的に男前度up?)
近くの木立でツクツクボウシが時折鳴きはじめるのも真夏の薪能ならでは。

病床の葵上に見立てた出小袖が正先に置かれ、
闇の奥から音もなく照日の巫女が現れる。
小面だろうか、古風でどこか謎めいた女面。
静かにワキ座に着き、下居する佇まいが神秘的で美しく、
斜め後方からかがり火に照らされた能面が妖しい陰影をたたえて、見る者を惹きつける。

藪克徳師って上手い人とは思っていたけれど、芸力の相当高い人ではないだろうか。
不動のまま下居しているだけで、神がかったオーラを放っていて、
その姿が神々しいまでに美しく、ずっと、いつまでも鑑賞していたくなる。
(ツレとしていいのかどうかは分からないけれど)位の高い、
品格と存在感のある照日の巫女だった。


巫女の打ち鳴らす梓弓に惹かれて六条御息所の生霊登場。
(実際には一声の囃子に乗って登場するのだが、大鼓のカーンという音色が周囲のビルに反響して木霊となり、あの世から響いてくるような不思議な効果音となっていた。)

揚幕の奥に影のように立つシテの姿はひんやりとした冷気を漂わせ、
泥眼の面には怒りの影はなく、深い憂いがあるばかり。

「恨みはさらに尽きすまじ」など恨みの詞のところでシテが何度もシオルのは、
嫉妬や恨みといった悪感情に駆られたくないのに、自分の意志ではどうにもならない
無力感や気位の高さ、女の業の深さを嘆いているからだろうか。

気持ちが高ぶった御息所は葵上(出小袖)を打擲し、責めさいなむ。
メラメラと燃えるかがり火がシテの気持ちを代弁し、ドラマティックに演出する。


夢にだにかへらぬものを我が契り、昔語りになりぬれば
なほも思いは増鏡、その面影も恥ずかしや
枕に立てる破れ車うち乗せ隠れ行かうよ


ここでシテは怒りにまかせるように扇をバンッと投げ捨て、
壺織に着た唐織からするりと両腕を抜いて、そのまま唐織を巧みに引き被き、
「隠れ行かうよ」のタイミングでしばらく身を伏せたあと、
後見座に行き、中入・物着。

後見座では唐織を幕の代わりにした、三人の後見による見事な連係プレイだった。

その間、横川の小聖が呼ばれ、ノットの囃子とともに怨霊退散の祈祷を始め、
やがて後シテが唐織を被いたまま現れる。


いかに行者、はや帰り給へ。帰らで不覚し給ふなよ。


地の底の異界から響いてくるような凄みのある恐ろしい声。
位がぐんとマックスに高まったような威厳さえ感じさせる。
二十代でこれができるって、やはりすごい人です。

面はとても端正で気品のある般若の面。
高貴な美女の悲しみを造形化したらこんなふうになるのだろうか。
鬼というよりも、人間らしい感情を持つ、心に突き刺さるような美しい般若面だった。

やがて囃子に太鼓も加わってイノリとなり、小聖と後シテとの壮絶バトル。
最後は祈り伏せられた生霊が成仏・得脱の身となって、めでたしめでたし。


とても好い舞台で薪能の醍醐味を満喫した気分!
ありがとうございました。



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