2016年2月10日水曜日

旧雨の会 ~序

2016年2月9日(火)  17時30分~21時  国立能楽堂

プレトーク「國和さんとの思い出」
          武田孝史 粟谷明生 森常好 観世銕之丞
     司会 辰巳満次郎
     特別出演 金春國直
 
独鼓《蟻通》  武田文志×大川典良
一調 《笠之段》 櫻間右陣×大倉源次郎
一調 《葛城》  山井綱雄×梶谷英樹
一調 《鳥追》  辰巳満次郎×佃良勝
仕舞 《邯鄲・舞アト》 金井雄資
仕舞 《杜若・キリ》  朝倉俊樹
一調 《おかしき天狗》 山本則俊×観世元伯
一調 《土蜘蛛》     森常好×桜井均

舞囃子《西行桜》 武田孝史
   一噌隆之 観世新九郎 亀井広忠 三島元太郎

舞囃子 《船弁慶》 粟谷明生
    一噌隆之 観世新九郎 亀井広忠 観世元伯

半能《融・思立之出、舞返》シテ観世銕之丞 
     ワキ森常好
     藤田次郎 大倉源次郎 佃良勝 金春國直
    後見 梅若長左衛門 清水寛二
    地謡 観世喜正 馬野正基 野村昌司 武田文志
       安藤貴康 武田祥照 観世淳夫 小早川泰輝

 

金春國和師が急逝して一年と少し。

わたしは師の太鼓を一年ほどしか拝見していないが、お能を見始めて最初のころに國和師の舞台に接する機会がたびたびあり、わたしが太鼓好きになったのも師の影響が大きいと思う。

それに、わたし自身が20代のころに50代の父を亡くし、父の死と同じ年に祖父も亡くしたこともあり、國直さんにわが身を重ねることもしばしば(もちろん背負うものが全然違うけれど)。


そんなわけで國和師を追悼し、國直さんを応援する機会があればいいのにとずっと思っていたので、今回の旧雨の会は、個人的にも待ち望んだ会なのだった。

ロビー正面には國和師の遺影と花束。
ようやく手を合わせることができた。
(奇しくも、この夜は宝生閑師の通夜でもあった。)


パンフレットには出演者の方々の追悼文と國和師の写真の数々が添えられている。

それぞれの思いが込められた文章に目頭が熱くなる。

そのなかで源次郎師の「彼が今、居なくなる事は友達が居なくなるとかの次元ではなく、能楽にとって間違いなく大きな危機を迎えるということだ」という言葉にわたしは大きく頷いた。


どの分野でもそうだが、やり終えないまま逝ってしまうのがいちばんやりきれない。


ましてや少数精鋭の能楽囃子方。
50代後半まで知識と経験を積み、技を磨くまで、どれほどの労力と時間とどれだけの方々の助力・尽力が必要だったか。

それが、次世代にきちんとバトンタッチされないまま、円熟期のさなかに失われてしまったのだ。


途轍もない損失。 はかりしれない喪失。


この日も、國直さんの後見に三島元太郎師がついていたが、三島・前川父子は関西、吉谷潔師は福岡在住で、関東には國直さんに技を受け渡す人がいないのが現状だ。


偉大な師の後ろに何百回も座って、座って、座り続けて、技を盗んでいくものなのに、國直さんにはその師がいない。

観世と金春。
太鼓方の両流派が拮抗し合ってそれぞれの特性を生かすことで、お囃子に豊かなヴァリエーションが生まれ、観客は能の醍醐味を味わうことができる。


前途多難だけれど、この一年、國直さんは長足の進歩を遂げられている。
打音のひと粒ひと粒に魂が込められ、音色が美しく澄み、宗家らしい風格と格調の高さも感じられる。

この方はきっと好い太鼓方さんになると思う。



旧雨の会 ~プレトーク、一調、仕舞舞囃子《西行桜》《船弁慶》、半能《融・思立之出・舞返》つづく




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