2016年7月7日木曜日

国立能楽堂七月公演 《白鬚》替間「道者」&後場

国立能楽堂七月公演 《白鬚・道者》前場~能のふるさと・近江からのつづき

人懐っこい近江のカモさん

能《白鬚》 漁翁/白鬚明神 観世銕之丞 前ツレ漁夫 観世淳夫
      後ツレ天女 谷本健吾     後ツレ龍神 長山桂三
      ワキ勅使 宝生欣哉   随臣 則久英志 御厨誠吾
      藤田六郎兵衛 鵜澤洋太郎 守家由訓 前川光範
      後見 清水寛二 西村高夫 柴田稔
      地謡 片山九郎右衛門 
          山崎正道 馬野正基 味方玄
          分林道治 浅見慈一 安藤貴康 青木健一

間狂言《道者》
      オモアイ勧進聖 山本泰太郎 アドアイ船頭 山本則重
      道者 山本則孝 山本凛太郎 水木武郎 寺本雅一
      アドアイ鮒の精 山本東次郎
      地謡 山本則俊 山本修三郎 山本則秀 




この日の大きな見どころ、劇中劇の替間狂言《道者》です。
替間が始まる前に、ワキツレが地謡後列の延長線上に当たる、ワキの背後に移動。
舞台空間の有効活用ですね。
なにしろ演者が多いうえに、作り物が三つ(社殿+舟二艇)載るのですから。


勧進聖の登場】
白鬚明神と伊崎明神の上葺き(屋根の葺き替え)費用を募る勧進聖が登場。
聖の装束は舞台の影向の松と同じ鮮やかなグリーン。

後見が地謡前にあらかじめ置いていた舟に乗り、琵琶湖を渡る道者(複数で連れ立って遠方の寺社を参拝する旅人)を待ちかまえる。



【狂言次第→道者4人登場→船頭登場】
北国から清水詣に行く途中の道者4人が登場。

この部分は、道者のリーダーが次第を謡うと狂言後見が地取を謡うなど(芸が細かい)、完全にワキのパロティです。

また、真ノ次第のワキの登場の時のように、道者リーダーが身を沈めて爪先立つ型をまねたり、道行や着きゼリフを謡ったりと、間狂言らしい可愛らしさでワキ方の物真似をします。

道者は琵琶湖を舟で渡ることに決め、船頭を呼んで舟に乗りこみます。
(船頭1人+道者4人が小舟に乗り込むので、けっこうギュウギュウ詰め。)



【勧進聖と船頭・道者のせめぎ合い】
道者の舟を目ざとく見つけた勧進聖が、勧進を迫ります。

(《船弁慶》の間狂言のように器用な手つきで舟をこぐ船頭と勧進聖の技も見どころ。セリフや相手の漕ぐリズムに合わせて漕いでいるんですね。)

最初は船頭も聖に加担して道者に勧進を進めていたのですが、勧進聖のあまりのしつこさに「無体な勧めをすることがあるものか!」と、道者の肩を持ちます。

それでもなお聖は賽銭箱の柄杓を突き出します。
相手が勧進に一向に応じないので、とうとう聖は「目に物をみせてやる、悔むな、道者!」と言って、何やら呪文を唱え――。



【狂言早笛で鮒の精登場→狂言舞働】
ユーモラスな狂言早笛に乗って、大鮒の精が颯爽と登場!
(ここは明らかに、シテ方の龍神のパロティ。後場で龍神が登場するので、この愛嬌たっぷりの鮒の精との対比が面白い。)

アドアイ鮒の精の出立は、厚板の上に法被肩上、半切。
頭には、シャチホコのような可愛い鮒を載せた輪冠(鮒戴?)。
面は賢徳かな。

大鮒は怒りをあらわに(?)、道者たちを威嚇しつつ舞働キ。
その身軽さ、足取りの軽快さ、身のこなしの鮮やかさ。

ここはもう、東次郎さんの驚異的な身体能力、巧みな芸の技の連続で、
飛び返りを3回もやるというミラクルな離れ業!
Amazing!!!!!

面をつけているから言われなければ、まさか70代の人が舞っているとは到底思えない。
奇跡のような芸の力です。

これを見た道者たちもこのような奇特に驚き、上着を脱ぎ捨てて勧進聖に与えます。
鮒の精は喜んで、舟の綱を口に咥え、躍り跳ねながら堅田の浦まで道者たちを送り届けるのでした。
めでたし、めでたし。



【後場】
出端の囃子とともに地謡「宜禰(きね)が鼓も声澄みて神さび渡れるをりからかな」で神さびた雰囲気が用意されるなか、「白鬚の神の御姿現れたり」で社殿の引廻しがはずされ、後シテ・白鬚明神が現れる。

後シテの楽】
後シテの出立は、輝くようなプラチナホワイトの狩衣に金茶の半切。
鳥兜を被り、茗荷悪尉の面をつけているので、異国的かつ威圧的。

金輪をはめた独特の形状をした眼(茗荷の形に似ているとのこと)と八の字眉が特徴的な茗荷悪尉は、強さと弱さ(情けなさ)という相反するイメージをもち、これを品良く造形するのは至難の業。
この是閑作の茗荷悪尉は観る者に何かを訴えるようなまなざしをしている不思議な面でした。


後シテは非常に重量感のある楽を舞う。
体軸が不安定なのが気になるけれど、足拍子の時にバランスが崩れそうで崩れない。



【イロエ→天女登場→早笛→龍神登場→天女・龍神相舞(舞働)】
白鬚明神が再び社殿に戻ると、天空が輝き、湖面が鳴動して、それぞれ天灯・龍灯を捧げた天女・龍神が現れる。

(天女と龍神の面は近江作・万媚と黒鬚で、近江を舞台にした《白》にちなんだのかな?)


ここからが血沸き肉躍るような展開で、特に光範さんの太鼓のカッコイイこと!
早笛の早打ちとかタイトに決まっていて、(CDでしか聴いたことがないけど)柿本豊次を思わせます。
この方、掛け声も素晴らしい!
来序以降、太鼓の出番が多いので堪能しました。


社殿の両脇にそろった天女・龍神は、捧げもってきた天灯・龍灯を灯明台に供え、相舞を舞います。

相舞といっても《二人静》のようなそろった舞ではなく、天女は天女らしく、しっとりした優雅な舞、龍神は龍神らしく、カッコよくキレのある舞。


この銕仙会の人気役者二人の相舞(競演?)もこの日の見せ場で、舞台がそれはそれは華やかに輝いて楽しかった!
あっという間に終わってしまって、もう少し長く観ていたかったくらい。

幕入りも龍神がダーッと橋掛りを駆け抜け、このスピード感・疾走感がとても良かった!


観ているほうは愉しくて2時間20分がそれほど長く感じなかったのですが、地謡・囃子方の立ち上がり方&歩き方から相当大変だったんだなーと思ったことでした。





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