2016年8月17日水曜日

第47回 相模薪能~狂言《二人袴》・能《杜若・恋之舞》

2016年8月15日終戦記念日 17時半~20時半 曇り時々小雨 寒川神社
相模薪能~能《俊成忠度》からのつづき

帰り道の太鼓橋から

狂言《二人袴》  親 野村萬斎  舅 石田幸雄
           太郎冠者 月崎晴夫 婿 野村裕基
           後見 中村修一
           働キ 内藤連

能《杜若・恋之舞》 シテ 杜若の精 観世喜正
    ワキ 旅僧 殿田謙吉
    一噌隆之 鵜澤洋太郎 國川純 小寺真佐人
    後見 奥川恒治 遠藤喜久
    地謡 五木田三郎 弘田裕一 鈴木啓吾 駒瀬直也
        小島英明 坂真太郎 中森健之介 斎藤比佐晃
    働キ 河井美紀 久保田宏二




狂言《二人袴》
萬斎父子が親子を演じる親子共演。
花のある二人に実力派のベテランが加わり、とっても面白く華やかな舞台でした。
会場は終始爆笑の渦で、誰もが楽しめた様子。

裕基さんはすでに萬斎さんの背丈を抜いていて、しかも小顔。

息子さんに袴を着付ける時の萬斎さんの手つきが丁寧かつ的確で、紐をキュッと締める時、「しっかりやれよ」と気合を入れると同時に、慈愛のような深い愛情がこもっているのがこちらにも伝わってきて、なんだかじい~んと来ました。


萬斎さんの舞台はとにかくメリハリが利いていて、間合いやテンポも良く、表情豊かで、幅広い客層を引き込む術を心得ている。
そして、スッと座っている時の姿勢がきれい。



能《杜若・恋之舞》
喜正さんの御舞台は神遊最終公演《姨捨》ぶり。
楽しみにしてたのに最後に思わぬ伏兵が! 薪能、恐るべし。


ワキの殿田さんが連続出演。
茶水衣・無地熨斗・角帽子・白房二つの数珠というスッキリとした出立で、都から三河の国に着いた僧は、沢辺の杜若に眺め入る。


正面席のあたりに咲き誇る杜若の群生を描き出す視線の表現力はさすが。
こちらも沢辺にいるような気分になってくる。


そこへ、「のうのう、御僧」と呼び掛ける謎の女性が登場する。


女の装束は杜若・鴛鴦、流水文といった水辺の文様を施した朱と水色の段替唐織。
面は増と思う。


強力な照明塔でフラットに照らされているせいか、女面は通常よりも黒い瞳が小さく見え、どこか焦点の定まらない、情緒不安定な年かさの女性という印象を与える。



でも、物着のあとは印象ががらりと変わり、臈たけたミステリアスな大人の女性に変化する。
このあたりが装束の変化とともに気を変えるシテの力量のなせる技でしょうか。



物着を終えて振り返ったシテは業平菱の紫長絹をまとい、真ノ太刀を佩き、初冠に梅花を挿して、緋色の日蔭の糸を垂らすという倒錯美の極致。


「恋之舞」の小書ゆえクリ・サシ・クセはカットされ、地次第「はるばる来ぬる唐衣、着つつや舞を奏づらん」から「花前に蝶舞ふ」にワープする。そして序ノ舞へ。



序ノ舞の途中から橋掛りへ行き、一の松で右袖を被いて欄干の下を見込む。


さらに袖を返して、愛おしい人を抱きしめるように左袖を胸に引き寄せ、橋掛りから脇正を見下ろし、左右に面を使う。



その姿は、業平のようでもあり、高子のようでもあり、杜若の精のようでもあり、恋の化身として昇華されたシテの姿にうっとりと見入っていたその時、
シテの視線の先にいた高齢女性集団が、何を思ったか、いきなり大声でしゃべり始めるという事態が勃発。


よりによってなぜこのタイミングで!?


それまでもあちこちで飴を配って食べたり、おしゃべりしたりといろいろ騒がしく、集中力でなんとかカバーしていたのですが、この序ノ舞の橋掛りで見込む場面だけは、頼むから静かにしてほしかった。


見所に潜むテロル。
過激派による古代遺跡の破壊を目のあたりにしたようなショック。



序ノ舞あと、「蝉の唐衣」でシテが正先で左袖を愛おしそうに眺め入る場面など見どころがあり、せっかく好い舞台だったのに、あまりのショックにもはや杜若の世界に入っていけなかった。







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