2016年10月2日日曜日

東洋大学能楽鑑賞教室~《膏薬練》・《通小町》

2016年10月1日(土)15時~17時10分 最高気温27℃ 東洋大学・井上円了ホール

公演パンフレット
解説 小野小町関係の能 清水寛二

能装束着付実演 浅見慈一 鵜澤光

狂言《膏薬練》三宅右矩  高津佑介
       後見 吉川秀樹

能《通小町》シテ観世銕之丞 ツレ観世淳夫
         ワキ 則久英志
         藤田貴寛 田邊恭資 佃良太郎
         後見 清水寛二
         地謡 馬野正基 浅見慈一 長山桂三 安藤貴康
 



初めて行った東洋大学の能楽鑑賞教室は評判通りとてもよかった。
学生向けの鑑賞教室を一般にも開放しているなんて、東洋大学太っ腹!

【公演パンフレット
公演パンフレットが充実していて、なによりも17ページに及ぶ銕之丞師へのインタビュー記事が素晴らしい!
わたしが普段思っていることも的確な言葉で応えてくださっていて、とくに「わかりやすさを求める」社会風潮の弊害については、うん、うん、と読みながら何度も頷いてしまった。


インタビュアーの原田香織氏もけっこう鋭く突っ込んだことをおっしゃっていて、たとえば観世宗家を中心とした謡についても、「発音がすごくて、信じられないくらい音を立てるって言うんでしょうか。」と、たぶん多くの人が感じているけれど口に出して言えないことを活字にされているところが凄い!
(このコメントについては、当然ながら銕之丞師はうまくかわして(そらして?)いらっしゃいました。)



【解説:小野小町関係の能】
清水寛二さんのお話が面白い!
高校時代に学年一の美女にラブレターを送った実体験に始まり、美しいことは罪だ、という話になって、小町の話になっていく。
こういう話のもっていき方がうまいですね。

ちょうどこの日の前日に、Eテレで放送されたダリ能の一部を観ていたからか、清水さんのお顔がだんだんサルバドール・ダリの能面に見えてくる。
コンピューター制御による最新の金属加工技術でダリの顔を模したということだったけど、清水さんにも似ていた気がする。

ダリ能はよかった、エレベーターを橋掛りの代わりに使ったりと、現代的な建築空間がうまく生かされていて。
国立新美術館のロビーとコンクリート打ちっぱなしの青山の能楽堂とがどことなく雰囲気も似ているからか、ミニマルな現代空間のアレンジセンスはさすが(どなたが演出されたのだろう?)。
一般公開の機会があればいいのに。


話が脱線しましたが、解説の内容は小野小町関係の能(通、鸚鵡、卒都婆、草紙洗、関寺)のあらすじの紹介でした。



【装束着付け】
この日は、法被+白大口の装束着付。
武将の着付けは初めてなので興味深く拝見。

法被の肩脱で、抜いた部分を折りたたんで背中に挟み込むのは、矢立(箙)に見立てているんですね。ごく基礎的な知識かもしれないけれど、わたしは知らなかった!
それから法被の袖が普通の袖二枚分の裄丈だというのも知らなかった!!

最後は浅見慈一さんの指導で、モデルの学生さんが太刀を抜く所作を実践。
太刀は左腰に佩いているので、刀を抜く方向に右足先を向けて、腰を入れて、スッと抜くそうです。
やってみたい!



【狂言《膏薬練》】
三宅右矩さんの狂言は一年ぶりくらい。
もともと花がある方だけれど、さらに良くなられていた。
観に行く公演をアイ狂言で選ぶことはないので、この方の間狂言にあまりあたったことがない。



能《通小町》】
《通小町》を拝見するのは二度目。
一度目も銕仙会で、この日の地謡に入っている馬野正基(シテ)さんと長山桂三(ツレ)さんの時だった。

淳夫さんのツレ小町はきれい。
進化されたんだなーと思う。
幕離れもよかったし、ハコビや所作も(ハコビはこの方もともと上手かった)丁寧で品がある。
下居姿も楚々として可憐。
以前、妖しい万媚をつけた時は面だけが浮いて見えたのですが、この日の冷たい若女の面はそんなふうには感じさせず、能面が淳夫さんに味方して力を与えているように感じた。
あとは、謡いを克服できれば……。


銕之丞師はこういう役が合う。
無地熨斗目を被いたまま橋掛りで、「いや叶ふまじ戒授け給はば、恨み申すべし」と謡うところの恨みと悲哀と苦悩が入り混じった、背中がソクッとするような響き。

そして、「月は待つらん、月をば待つらん、我をば待たじ、虚言(そらごと)や」と魂を掻きむしるような謡のあと、「我がためならば」と、絶望の底に沈殿するように安座する、痩男のうつろな目。

ああ、この人はわかっていたのだ。
銕之丞演じる深草少将は、驕慢な女の出任せだと最初から心の奥底では感じていたのだ。


それでも、一縷の望みにすがって通い続けずにはいられなかった。

人間のどうしようもなく虚しい性(さが)のようなものが銕之丞師の深草少将から滲み出ていた。
その愚かな性はわたしのなかにもあって、だからこそ銕之丞師演じる深草少将の嘆きが心に沁みてくる。



地謡にも切々とした風情があり、好い舞台だった。






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