2016年10月8日土曜日

宇和島伊達家の能楽

2016年10月5日~12月7日(後期11月8日~)  国立能楽堂資料展示室





伊達宇和島家は、伊達正宗の庶長子・秀宗が宇和郡十万石に入部したことにより始まったとされる。
(秀宗は伊達正宗の長男だったが、正宗の正妻・愛姫が産んだ嫡子・忠宗が仙台藩伊達家の家督を相続したため、大阪冬の陣参陣の功として徳川家康から与えられた伊予宇和島十万石の初代藩主となったという。)


本特別展は前期・後期に分かれ、幸流宗家六世正氏による極銘が請にある精緻な「天衣葩蒔絵小鼓胴」などの鼓胴、能面の優品、珍しい能面のミニチュア「指面」や能絵鑑など、見応えのある名宝が数多く展示されている。



指面とは、親指サイズの能面の玩具のこと。
面の両側に綿紐がついていて、その紐で指に結びつけ、指人形のように「能ごっこ」をして遊んだという。
ただし、今回展示されている指面は、その裏側に指擦れがないことから専ら鑑賞用として楽しまれたのではないかと推測されている。
制作したのも面打ちではなく、人形をつくる職人だったのではないかとのこと。

ひとつひとつ、非常に精巧に作られていて、木彫と塗りの高度な技術がうかがえる。



展示のなかで特に印象に残ったのが、「老女」の面だった。
風雪に洗われ、透き通るように白い年老いた女の能面。

昭和4年5月5日に、梅若会別会で六世銕之丞(華雪)がこの老女面を借用して《姨捨》を舞った時の、袖を被いたモノクロ写真も能面の下に展示されている。

また、附には「当時、梅若万三郎、梅若六郎等一門ノモノ拝見ノ上、昔日美人タリシ面影歴然タルモノアリテ誠ニ類少ナキ見事ナル出来ナリトシ讃美セリ」とある。


観梅問題の真っ只中、万六黄金時代の梅若流別会。
波乱に満ちた輝かしい能楽史の生き証人のような老女の面。

彼女はほとんど閉じたようなその細い目で、いったい何を、どんな舞台を、どんな人間模様を見てきたのだろう。






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