2018年5月7日月曜日

《鞍馬天狗・白頭》~大江定期能

2018年5月6日(日)13~17時 大江能楽堂
能《女郎花》・狂言《舟船》からのつづき
御簾のかかった高土間の上が二階席
この日は正面二階席も観客でいっぱいに
仕舞《賀茂》   大江広祐
  《杜若キリ》 浅井文義
  《網之段》  井上裕久
  《鵜之段》  片山伸吾
  地謡 大江又三郎  吉浪壽晃 吉田篤史 浦部幸裕

能《鞍馬天狗・白頭》シテ 大江信行
  牛若 大江信之助 花見 深野百花 
  花見 大江栞理 大江真桜 大江雪乃
  ワキ 小林努 能力 茂山千三郎
  木葉天狗 松本薫 井口竜也 鈴木実
  齊藤敦 吉阪一郎 山本哲也 前川光範
  後見 大江又三郎 大江広祐
  地謡 浅井文義 片山伸吾  吉浪壽晃 深野貴彦
     宮本茂樹 大江泰正 鷲尾世志子 浦田親良
附祝言




大江定期能中盤は仕舞4番。
このころからようやく空調が効いてきて、蒸し暑さも和らいでくる。桟敷席の足の辛さといい、いにしえの見所環境を身をもって味わうのも一興。



仕舞《賀茂》 大江広祐
 お兄様の信行さんに似た縦長のスリムな体型だけれど、雷鳴をあらわす足拍子は驚くほど重く、迫力がある。かといって、荒々しくならずに品位を保っているのは、下半身の骨格と筋力が鍛えられ、安定しているからだろう。舞姿にもキレがあり、しっかりした基礎鍛錬を積んでいる方だとお見受けした。


《鵜之段》 片山伸吾
 片山伸吾さんの仕舞は何度か拝見しているけれど、この日の《鵜之段》はよかった! 型の表現が見事で、次々と情景が目の前に浮かび上がってくる! 
 投網を打つように扇をパッと開いて、鵜を放つ型のリアルさ。振り立てた松明の火が暗い水面に紅く映り、魚を追い回す顔の動きで、威勢よく泳ぎまわる魚たちの黒い影が生き生きと見えてくる。罪も報いも顧みず、殺生業に狂い興じる姿が、「月になりぬる」で左上方を見あげた時から一変、夢のような宴が終わった後の悲しさ、名残惜しさが川霧のように辺りに立ち込める。

片山伸吾さんのシテは7月の《須磨源氏》で拝見する予定なので楽しみ。

(仕舞の地謡も、最高だった!)



能《鞍馬天狗・白頭》
 大江信行さんはたぶん地謡でしか拝見したことがなく、坂本龍馬の立姿写真に似ているなあといつも思っていた方。なんとなく、勤王の志士的な雰囲気がある、と勝手に想像。

この日の信行さんは観世会館や国立能楽堂(昨夏の東西合同で拝見)にいるときとは雰囲気が違っていて、次期大江家当主としての威厳のある引き締まった顔つき。
舞台も、子方さんがたくさん出ていても少しも弛緩したところのない、非常に引き締まった良い舞台だった。


【前場】
大江兄弟と深野さんのお子さんが出演した子方さんたちはとっても可愛くて(ニコニコ、キョロキョロする子がいるのも花見稚児ならではの愛らしさ)、舞台の上はまさに満開の桜を見るようにぱあっと明るく、華やかになる。
牛若役の信之助さんはお父様の信行さんに似て背が高く、大人びた聡明そうな顔立ちが牛若役にぴったりだ。


一人残された牛若と言葉を交わす場面では、前シテの山伏が最初は脇正で安座。
情景を地謡が謡いあげるのだが、このときのシテの静止した姿が彫像のように美しく、鑑賞に価する。


「夕べを残す花のあたり」で、シテは夕日の名残を残す花の梢を見上げ、
「鐘は聞こえて夜ぞ遅き」で、目を伏せて静かに鐘の声を聞く。

春の夕べ。
ちょっぴり寂しく、ほんのり甘く、なまめかしい。
地謡の謡とシテの所作から、春の夕暮れのぬるりとした甘ったるい空気が漂ってくるようだった。

やがてシテは「雲を踏んで飛んでゆく」と、大きな羽が生えたようにサーッと橋掛りを過ぎ、揚幕の向こうへ消えて行った。


ここで来序となり、前川光範さんの太鼓が入る。
来序は(出端も)掛け声が命だ。
《女郎花》の出端も《鞍馬天狗》の来序も、光範さんの掛け声が冴える。
こういう掛け声が入るのと入らないのとでは、囃子と舞台の出来が随分違ってくる。


【後場】
重く、どっしりとした大ベシの囃子にのって後シテが登場。
(笛の齋藤敦さんは初めて拝見するけれど、大阪の森田流の方なんですね。)

後シテ・大天狗の装束は、白頭、大兜巾、衣紋づけ白狩衣の上に掛絡、半切、腰に羽団扇を差し、鹿背杖をついている。面は悪尉。
「白頭」の位に合わせ、細身ながらもシテの足取り・所作にはしっかりとした重みがあり、丹田に重力を集中させ、魂を凝縮させたハコビだった。

「霞とたなびき雲となって」で、三の松で左袖を被き、
「峰を動かし」から、ナガシの囃子にのって橋掛りから舞台へ。


舞働にも重厚感があり、羽団扇から持ち替えた長刀さばきも鮮やか。
袖の扱い、面遣いも見事だった。

とくに、天井が低く、幅の狭い橋掛かりでの袖の扱いは、日本一背の高い能楽師であるシテにとって容易ではないと思うのだが、膝や肘を絶妙なタイミングで巧みに屈することで、クルクルッと勢いよく袖を巻きあげ、大兜巾の上から袖をふんわり被いた時の小気味よさ……そのテクニックに脱帽!


大江定期能、楽しかった!
都合がつけば九月の夜能にも、ぜひ行きたい。











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